快適ライフ7月号

祝・世界遺産登録! そのニュースを聞き、「富士山に登りたい」と思ったのは、日本人だけではなかったようです。
弟の友人のピーター、ウイル、ジェイソンの三人が、早速、アメリカ・コロラド州から駆けつけました。
そんな訳で、私は、七月十一日、彼ら三人と弟と共に、日本のテッペンを目指すこととなりました。
 朝七時、五合目の駐車場は、すでに満車。富士山人気を象徴するかのように、路肩駐車の車の列が、そこから延々と伸びています。列の最後は、なんと駐車場から一キロも離れた場所。 
ジェイソンとウイルは十八歳の若者で、はじめからハイペースで先に進んでいきます。ピーターは五十歳代にも関わらず、日本の若者よりも早く登っていきます。それもそのはずで、コロラド州はロッキー山脈で知られ、彼らの町は標高一五〇〇m。これは日常的に高所トレーニングを積んでいるようなものでしょう。
 詳しく聞いてみると、富士山よりも高い四〇〇〇m峰が、なんと五十四座もあるそうです。そのような風光明媚な山岳都市に住んでいるのに、なぜわざわざ、富士山に登りたくなったのでしょうか? それを聞いてみると、
「富士山みたいな山は日本にしかないよ!」
との答え。
 彼らは、五合目で購入した木の杖に、各小屋で、焼印を押して貰っていました。ところが、シーズン前のため、九合目は小屋が閉まっていて、それを押してもらう事ができませんでした。これでは山頂の神社も閉まっていることでしょう。
「これじゃあ八合目までしか登ってないみたいじゃないか!」
と言いながら、彼らは悔しがっています。
 しかし、ペースを乱すことなく最後の急登も登りきり、十一時に登頂。
 振り返ると、登山者の列。その向こうには、伊豆と箱根の緑の山々。沸き立つ夏雲の切れ間からは、いくつかの町が見えます。
穏やかなその景色とは対象的に、反対側は、人の侵入を拒絶する急峻で巨大な噴火口。
その二つの世界の間には、歴史ある浅間大社奥宮が鎮座しています
 人の暮らし、大自然、そして神仏。それらが折り重なった独立峰の山頂。確かにこの様な場所は、コロラド州にはないでしょう。
 なんと浅間大社には、神主さんがすでに暮らしていました。そして、杖に「富士山頂奥宮」と記された焼印を押してくれたのでした
 ピーターとジェイソンは、秋から大学生になり寮生活がはじまるそうです。
「この杖は、必ず寮の部屋に飾る!」
ふたりは笑いながら、そう言いました。
 僕らの登頂から一時間後、弟とピーターも無事に登頂することができました。

夕方、五合目に戻って来たときには、ピーターは車に乗に込むことさえも辛い様子。脚を擦りながら彼は言いました。
「実は、この富士登山のためにトレーニングをして、九キロも体を絞ったんだ。本当に登頂できて良かった」
 彼は颯爽と来日したので、富士登山も気軽にトライしたと思いきや、実は並々ならぬ想いでの挑戦だったようです。

その後、彼らは三日ほど、静岡に滞在しましたが、毎晩、大石家と飲み会。こちらが正確に知っている英語は、KIRINとSAPPOROくらい。だから、互いの文化を深く語り合うことは微塵もなく、ただ飲んで、お互いが意味不明な言葉を発し、食べて、そしてただ騒ぐといったもの。
 そう言えば、富士山は、「自然」遺産ではなく、「文化」遺産として登録されたそうです。
 その肝心の「文化」は、大石家のせいで誤解され、評価が落ちたかも・・・・・・。それでも、
「また日本に来たい!」
と彼らは、また言ってくれました。
「イエス! またKIRINを飲みましょう!